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親知らず抜歯の保険適用ガイド|費用・痛み・仕事への影響は?
執筆者:院長 光本 和世
親知らずの抜歯を検討されている方にとって、「保険は適用されるのか」「実際の費用はいくらかかるのか」「抜歯後の痛みや腫れはどのくらい続くのか」「仕事に影響は出ないだろうか」といった不安は尽きないものです。特に痛みがでていても、費用面やダウンタイムの不確実さから、つい受診を先延ばしにしてしまう方も少なくありません。この疑問が解決されないままでは、なかなか一歩を踏み出せないのも当然でしょう。
この記事では、親知らずの抜歯に関するこれらの具体的な不安点を解消できるよう、保険適用の可否から、生え方ごとの費用相場、抜歯後の回復期間、そして仕事への影響と対策までを包括的に解説します。この記事を通して、安心して治療に臨むための具体的な情報を得て、納得のいく選択ができるよう、詳細に説明していきます。
親知らずの抜歯、保険は適用される?
親知らずの抜歯を検討されている多くの方が、「保険は適用されるのだろうか」という疑問をお持ちではないでしょうか。費用に関する不安は、治療に踏み出す上での大きなハードルとなりがちです。このセクションでは、親知らずの抜歯における保険適用の可否について、基本的な結論から、具体的な適用条件、さらには保険適用外となるケースまで、詳しく掘り下げて解説していきます。
【結論】治療目的なら基本的に健康保険が適用される
親知らずの抜歯は、多くの場合、健康保険が適用されます。特に「治療が必要な状態」と歯科医師に診断された場合は、基本的に健康保険の対象となりますのでご安心ください。例えば、親知らずが原因で虫歯になってしまったり、歯周病を引き起こしていたり、あるいは歯並び全体に悪影響を及ぼしているといったケースがこれに該当します。
治療費が全額自己負担となる自由診療と比べて、健康保険が適用されることで窓口での支払いは原則3割負担に抑えられます。これにより、経済的な不安を大きく軽減できるでしょう。ただし、すべての親知らずの抜歯で保険が適用されるわけではありません。
治療目的ではない場合や、特別な治療法を選択した場合など、一部のケースでは保険適用外となることもあります。詳細な適用条件や、どのような場合に保険が適用されないのかについては、次の見出しで具体的にご説明しますので、ご自身のケースと照らし合わせながらご確認ください。
親知らず抜歯で保険適用になる条件
健康保険が適用される「治療目的」の親知らず抜歯とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。主に、以下のような症状や問題が確認された場合に、保険診療として抜歯が行われます。
まず、親知らず自体が虫歯になってしまっている場合です。親知らずは口の奥に位置するため歯磨きがしにくく、虫歯になりやすい傾向があります。次に、親知らずが原因で隣の歯が虫歯になったり、歯周病を引き起こしていたりするケースも保険適用の対象です。また、親知らずが真っ直ぐ生えず、他の歯を押し出すことで歯並びを乱す原因になっている場合や、親知らずの周りの歯茎が繰り返し腫れて痛み(智歯周囲炎)を引き起こしている場合も、治療が必要と判断されます。
さらに、親知らずが変な生え方をしているために噛み合わせが悪く、頬の内側の粘膜を頻繁に傷つけてしまうような場合も、抜歯の対象となることがあります。これらの症状が一つでも当てはまる場合は、歯科医師がレントゲンなどで状態を確認し、総合的に判断した上で保険診療として抜歯の処置が受けられます。
注意!保険適用外(自費診療)になるケース
親知らずの抜歯は、基本的に保険適用となりますが、残念ながら保険が適用されず、全額自己負担となる自費診療のケースも存在します。ご自身の希望や状況によっては、以下の例に当てはまる可能性がありますので、注意が必要です。
例えば、「特に痛みや症状はないが、将来の虫歯予防のために抜歯しておきたい」と患者様ご自身が希望される場合、これは医学的に必要とされる治療とは見なされないため、保険適用外となります。また、矯正治療の一環として親知らずの抜歯を勧められることがありますが、この場合も、医学的に抜歯の必要性が認められない場合は保険適用外となることがあります。
さらに、「小顔になりたい」といった美容目的での抜歯も、治療目的とは異なるため自費診療です。また、抜歯処置自体は保険適用であっても、「静脈内鎮静法」のような特別な麻酔法を選択した場合は、その麻酔費用が保険適用外となり、自費負担となる可能性があります。このように、治療目的ではない場合や、特別な処置を希望される場合は、事前に歯科医院で費用の詳細を確認し、納得の上で治療を進めることが大切です。
【生え方別】親知らず抜歯の費用相場(3割負担の場合)
親知らずの抜歯にかかる費用は、その生え方によって大きく異なります。親知らずがまっすぐ生えているのか、斜めや横向きに生えているのか、あるいは歯茎や骨の中に完全に埋まっているのかによって、抜歯の難易度が変わるためです。この難易度によって、処置にかかる時間や手間、必要となる器具や麻酔の種類も変わり、それが費用に直結します。
このセクションでは、健康保険が適用された場合の3割負担を想定し、親知らずの生え方別に費用相場を詳しく解説していきます。具体的には、「まっすぐ生えている場合」「斜め・横向きに生えている場合」「歯茎に完全に埋まっている場合」の3つのパターンについて見ていきましょう。ご自身の親知らずの状態と照らし合わせながら、おおよその費用を把握する参考にしてください。
まっすぐ生えている場合(単純抜歯)
親知らずが他の歯と同じようにまっすぐ生えており、歯ブラシが届きやすく虫歯や歯周病のリスクも低い場合、抜歯は「単純抜歯」に分類されます。このタイプの親知らずは、歯茎の切開や骨を削るなどの複雑な処置が必要ないため、抜歯にかかる時間が比較的短く、処置もシンプルであることが特徴です。
そのため、費用も他のケースに比べて最も安価になります。3割負担の場合の費用相場は、おおよそ1,500円〜3,000円程度と考えて良いでしょう。これはあくまで一般的な目安であり、抜歯を行うクリニックや親知らずの状態、使用する麻酔の種類などによって変動する可能性があります。ただし、このタイプであれば、経済的な負担は比較的軽いことが多いです。
斜め・横向きに生えている場合(難抜歯)
親知らずが斜めや横向きに生えており、歯の一部が歯茎に埋まっている場合は「難抜歯」に分類されます。このような生え方をしている親知らずは、歯と歯茎の間に汚れが溜まりやすく、虫歯や歯周病、さらには隣の歯に悪影響を与えるリスクが高いため、抜歯が必要と判断されることが多いです。
難抜歯の場合、単にペンチで抜くだけでは対応できないため、歯茎を切開したり、親知らずをいくつかの部分に分割してから取り出したりするなど、より専門的な処置が必要になります。そのため、単純抜歯と比較して費用は高くなりますが、3割負担の場合の費用相場は3,000円〜5,000円程度が目安です。処置の複雑さに応じて、この範囲内で費用は変動します。
歯茎に完全に埋まっている場合(埋伏抜歯)
親知らずが歯茎や顎の骨の中に完全に埋まっている状態は「埋伏抜歯」と呼ばれ、最も難易度の高い抜歯処置となります。このタイプの親知らずは、見た目には生えていないため、自覚症状がないこともありますが、レントゲンやCT撮影で発見されることがあります。
埋伏抜歯では、歯茎を大きく切開し、必要に応じて顎の骨を削って親知らずを取り出す必要があります。場合によっては、親知らずを細かく分割しながら慎重に抜歯することもあります。そのため、処置は非常に複雑で時間もかかり、費用も他のケースに比べて最も高額になります。3割負担の場合の費用相場は、5,000円〜15,000円程度が目安となるでしょう。また、このケースでは事前に詳細な診断を行うためにCT撮影が必要になることが多く、その検査費用が別途かかることも覚えておきましょう。
抜歯以外にもかかる費用の内訳(初診料・検査費・薬代など)
親知らずの抜歯にかかる費用は、抜歯処置そのものの費用だけではありません。歯科医院を受診してから抜歯が完了し、治療後のケアが終了するまでに、いくつかの費用が発生します。これらの費用を合算したものが、最終的に窓口で支払う総額となります。
具体的には、まず初診時には「初診料」がかかりますし、再診時には「再診料」が発生します。親知らずの状態を正確に把握するためには、「レントゲン撮影費(パノラマレントゲン)」はほぼ必須で、特に難易度の高い埋伏歯の場合は、より詳細な情報を得るために「CT撮影費」が追加で必要となることがあります。抜歯処置中には痛みを抑えるための「麻酔代」もかかります。さらに、抜歯後には感染予防のための「抗生物質」や痛みを和らげる「痛み止め」などの「薬代」も発生します。
抜歯後には、傷口の回復状況を確認したり、消毒を行ったりするための通院が必要となり、その都度「処置料」や「消毒代」が発生することもあります。これらの項目はすべて健康保険の適用対象となりますが、それぞれの費用が積算されることで、最終的な支払い額は抜歯処置費の目安よりも高くなることを理解しておくことが大切です。事前にこれらの費用についても歯科医院に確認しておくと良いでしょう。
費用負担をさらに軽減する3つの制度
親知らずの抜歯は、健康保険が適用される場合が多いですが、それでもまとまった費用が必要となることもあります。しかし、ご安心ください。保険適用に加えて、医療費の経済的な負担をさらに軽減できる公的な制度や、ご自身で加入されている民間の保険を活用する方法があります。
このセクションでは、特に「医療費控除」、「高額療養費制度」、そして「民間の医療保険・生命保険」の3つの制度について詳しく解説していきます。これらの制度を上手に利用することで、親知らずの抜歯にかかる費用を実質的に抑えることが可能になります。ぜひ参考に、経済的な不安なく治療に臨めるように準備を進めていきましょう。
医療費控除で税金が還付される
医療費控除とは、1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費の合計額が一定額を超えた場合に、確定申告を行うことで所得税の一部が還付されたり、翌年度の住民税が減額されたりする制度のことです。この「一定額」とは、原則として10万円、または所得金額が200万円未満の場合は「総所得金額の5%」となります。
親知らずの抜歯にかかった費用も、この医療費控除の対象となります。ご自身の医療費だけでなく、生計を一つにしているご家族の医療費も合算して申告できますので、ご家族の医療費も含めて年間で10万円を超えるようであれば、ぜひ医療費控除の利用を検討してみてください。申告には、医療機関から発行される領収書が必要となりますので、大切に保管しておくようにしましょう。
高額療養費制度で自己負担を抑える
高額療養費制度は、同じ月内(月の初めから終わりまで)に医療機関に支払った自己負担額が、ご自身の年齢や所得に応じた「自己負担限度額」を超えた場合に、その超えた分の金額が後から健康保険組合などから払い戻される制度です。
親知らずの抜歯は、一般的には治療費が高額になることは少ないため、この制度の対象となることは稀かもしれません。しかし、もし抜歯が複数回にわたったり、入院を伴うような大がかりな手術が必要になったりした場合には、自己負担限度額を超える可能性も考えられます。万が一に備え、このような制度があることを知っておくと安心です。ご自身の自己負担限度額については、加入している健康保険組合や市町村の窓口で確認できます。
民間の医療保険・生命保険の手術給付金はもらえる?
ご自身で加入されている民間の医療保険や生命保険の中には、手術給付金が受け取れるものがあります。親知らずの抜歯も「手術」とみなされ、給付金の対象となるケースがありますので、加入している保険契約の内容を確認してみる価値は十分にあります。
給付の対象となるかどうかは、保険会社や契約内容によって大きく異なります。「抜歯術」が給付対象の手術リストに含まれているかどうかがポイントになりますが、特に歯茎を切開したり、骨を削ったりする「難抜歯」や「埋伏抜歯」は、給付対象となる可能性が高い傾向にあります。まずはご自身の保険証券を確認し、もし不明な点があれば、加入している保険会社に直接問い合わせてみましょう。給付金が受け取れれば、抜歯にかかった費用の一部を補填でき、経済的な負担をさらに軽減することができます。
親知らず抜歯の痛み・ダウンタイムと仕事への影響
親知らずの抜歯を検討されている多くの方が、「治療費用」と同じくらい不安に感じるのが「抜歯後の痛みや腫れ、そしてどれくらいの期間、日常生活に影響が出るのか」という点ではないでしょうか。特に、仕事や学業に支障が出ないか、いつから普段通りに過ごせるのかといった疑問は尽きません。
このセクションでは、抜歯後の具体的な経過、痛みや腫れのピークとその期間、そして仕事への影響や抜歯後の過ごし方について詳しく解説します。これらの情報を事前に知ることで、抜歯後のスケジュールをより現実的に立てられ、安心して治療に臨むための参考にしていただければ幸いです。
抜歯当日から抜糸までの流れ
親知らずの抜歯は、麻酔が効いている間は痛みを感じませんが、麻酔が切れると痛みが出始めることが一般的です。そのため、抜歯当日は麻酔が切れる前に、歯科医師から処方された痛み止めを服用することをおすすめします。また、抜歯後は少量の出血が続くことがありますが、清潔なガーゼをしっかりと噛んで圧迫止血することで、ほとんどの場合は止まります。
抜歯の翌日から3日目にかけては、痛みや腫れがピークを迎える時期です。特に、下の親知らずや埋伏歯の抜歯では、腫れが顕著に出やすい傾向があります。この期間に、傷口の消毒のために通院が必要になるケースもありますので、歯科医師の指示に従ってください。痛み止めや抗生物質は、指示された通りに服用を続けることが大切です。
抜歯後4日目から1週間ほどで、痛みや腫れは徐々に落ち着いてきます。完全に症状がなくなるわけではありませんが、日常生活への支障は軽減されていくでしょう。そして、抜歯後1週間から10日ほど経つと、傷口の状態が安定し、抜糸のために再度通院が必要になります。抜糸は痛みも少なく、これで一つの区切りとなりますが、傷口が完全に塞がるまでにはもう少し時間がかかります。これらの期間はあくまで目安であり、親知らずの生え方や体質によって個人差があることをご理解ください。
痛みや腫れのピークは?いつまで続く?
親知らずの抜歯後の痛みや腫れは、特に抜歯後48時間以内、つまり抜歯の翌日から3日目にかけてがピークとなることが多いです。この時期は、傷口が回復しようとする過程で炎症反応が起きるため、どうしても症状が強く現れます。特に下あごの親知らず、それも骨に深く埋まっていた「埋伏歯」の抜歯では、腫れが大きく出やすく、顔が一時的に膨らんで見えることもあります。
しかし、ご安心ください。痛みや腫れは、通常1週間程度で日常生活に支障がないレベルまで徐々に引いていきます。適切な痛み止めを服用することで、痛みを効果的にコントロールできますし、冷たいタオルなどで患部を冷やすことで腫れを和らげることも可能です。ただし、冷やしすぎは血行を悪くし、かえって治りを遅らせることもあるため、適度に行うことが大切です。
もし、1週間以上経っても強い痛みや腫れが引かない場合、あるいは症状が悪化していると感じる場合は、「ドライソケット」などの合併症の可能性も考えられます。ドライソケットとは、抜歯窩に血餅(血の塊)がうまく形成されず、骨が露出してしまう状態のことで、強い痛みを伴います。このような場合は自己判断せず、すぐに抜歯を行った歯科医院に相談するようにしてください。
抜歯後の過ごし方|仕事・食事・注意点
親知らずの抜歯後は、術後の回復を早め、痛みや腫れといったトラブルを最小限に抑えるために、普段の生活でいくつか注意すべき点があります。このセクションでは、特に多くの方が気になる「仕事や学業への影響」や「食事の摂り方」、そして「控えるべき行動」について詳しく解説していきます。抜歯後の大切な期間を安心して過ごすために、ぜひ参考にしてください。
仕事や学校はいつから休むべき?
親知らずの抜歯後は、心身ともに安静にすることが回復を早める上で非常に重要です。そのため、抜歯当日は無理せず、お休みを取ることを強くおすすめします。麻酔が切れると痛みが出る可能性があること、また出血や腫れが生じることも考慮すると、デスクワークであっても安静に過ごすのが賢明です。
抜歯翌日以降の仕事や学校への復帰は、抜歯の難易度や職種によって異なります。例えば、デスクワークであれば、痛みや腫れが我慢できる範囲であれば翌日からでも復帰できる場合があります。しかし、人と接する機会が多い接客業や営業職の場合、会話によって傷口に負担がかかることや、顔の腫れが気になることを考慮すると、2~3日お休みを取ると安心です。
最も注意が必要なのは、力仕事や体を動かす屋外での作業です。血行が良くなることで痛みが増したり、再出血のリスクが高まったりするため、最低でも2~3日、できれば1週間程度は休むことを推奨します。抜歯前に、ご自身の仕事内容と抜歯の難易度を歯科医師に伝え、具体的な休業期間について相談し、事前にスケジュールを調整しておくことが非常に重要になります。
食事は何を食べればいい?
親知らず抜歯後の食事は、傷口への刺激を避けることが最も大切です。抜歯当日は麻酔が完全に切れてから、おかゆ、ゼリー、ヨーグルト、スープ、冷めた茶碗蒸しなど、ほとんど噛まずに食べられる流動食や、柔らかく冷たいものがおすすめです。熱いものや硬いものは、痛みや出血を誘発する原因となるため避けてください。
抜歯翌日以降も、急に通常の食事に戻すのではなく、うどん、煮込み料理、豆腐、プリンなど、柔らかく刺激の少ないものから段階的に慣らしていくようにしましょう。食事をする際は、抜歯した側とは反対の歯で噛むように意識し、傷口に食べ物が詰まらないように注意してください。
また、香辛料が効いた辛いもの、酸っぱいもの、アルコールなどの刺激物も、傷口に触れると強い痛みを感じることがありますので、避けるべきです。完全に回復するまでは、消化が良く、口の中で細かく砕かなくても飲み込めるような食品を選ぶことが、スムーズな回復につながります。
運動・飲酒・喫煙などの制限
親知らずの抜歯後は、血行が良くなるような行動を避けることが、痛み、腫れ、そして再出血のリスクを抑える上で非常に重要です。具体的には、以下の行動を最低でも抜歯後2~3日間、できれば1週間程度は控えるようにしてください。
まず、激しい運動は控えるべきです。運動によって心拍数が上がり血行が促進されると、抜歯した部分の血圧も上昇し、出血が再開したり、痛みが増したりする可能性があります。軽い散歩程度であれば問題ないことが多いですが、負荷のかかる運動は避けて安静に過ごしましょう。同様に、長時間の入浴も血行を良くするため、シャワー程度で済ませることをおすすめします。
飲酒も控えるべき行動の一つです。アルコールには血行促進作用があり、抜歯後の傷口に悪影響を及ぼすだけでなく、服用している痛み止めや抗生物質との相互作用も懸念されます。また、喫煙は血流を阻害し、傷の治りを著しく遅らせるだけでなく、「ドライソケット」のリスクを高めることが知られています。抜歯後の数日間は、可能な限り禁煙することがスムーズな回復のために非常に重要です。これらの制限を守ることで、不必要なトラブルを避け、安心して回復期間を過ごせるでしょう。
親知らず抜歯に関するよくある質問
ここまでで解説しきれなかった、親知らずの抜歯に関してよく寄せられる疑問について、Q&A形式で詳しくお答えしていきます。抜歯の必要性や、どの歯科医院で治療を受けるべきか、さらには妊娠中や授乳中の抜歯といった、具体的な状況における疑問を解消し、安心して治療に臨めるようサポートします。
Q1. 抜かないとどうなる?抜歯は必須?
親知らずを抜かずに放置した場合、さまざまなトラブルの原因となる可能性があります。まず、親知らず自体が虫歯になりやすいという問題が挙げられます。一番奥に位置しているため歯ブラシが届きにくく、磨き残しによって虫歯のリスクが高まります。また、親知らずが中途半端に生えていると、その隙間に食べかすが溜まりやすく、炎症を起こして歯茎が腫れたり、痛みが生じたりする「智歯周囲炎」を繰り返すことも少なくありません。これが悪化すると、口臭の原因になったり、隣の健康な歯にまで影響を及ぼしたりすることもあります。
さらに、親知らずが横向きや斜めに生えている場合、隣の歯を強く押して歯並びを乱す原因となることがあります。せっかく矯正治療で整えた歯並びが、親知らずによって再びずれてしまうというケースも実際に存在します。長期的には、親知らずが原因で隣の歯が虫歯や歯周病になり、最悪の場合、親知らずだけでなく隣の歯まで失ってしまうリスクも考えられます。
しかし、すべての場合において抜歯が必須というわけではありません。親知らずがまっすぐに生えていて、歯磨きがきちんと行き届いており、特に問題を起こしていない場合は、必ずしも抜歯する必要はないと判断されることもあります。最終的な判断は、歯科医師がレントゲン撮影などで親知らずの状態や周囲の環境を詳細に確認し、総合的に検討した上で行われます。痛みや不調を感じていない場合でも、一度歯科医院でチェックを受けることをおすすめします。
Q2. 大学病院での抜歯を勧められるのはどんな時?
親知らずの抜歯は、多くの場合、一般の歯科医院で対応可能です。しかし、いくつかのケースでは、より高度な設備と専門的な知見を持つ大学病院や総合病院の口腔外科での治療を勧められることがあります。これは、患者さんの安全を最優先し、合併症のリスクを最小限に抑えるための判断です。
具体的な例として、親知らずが下顎の太い神経(下歯槽神経)に非常に近い位置にあったり、神経と接していたりする場合が挙げられます。このようなケースでは、抜歯中に神経を損傷するリスクがあるため、CT撮影による精密な検査が不可欠です。大学病院では、このような高度な画像診断装置が完備されており、専門医がより安全な手術計画を立てることができます。また、親知らずが骨の中に完全に埋まっている「完全埋伏歯」や、歯の根が複雑に曲がっているなど、極端に難易度の高い抜歯の場合も、経験豊富な口腔外科医による処置が推奨されます。
さらに、心臓病や糖尿病といった全身疾患をお持ちの方や、抗凝固剤を服用されている方は、抜歯の際に特別な全身管理が必要となることがあります。大学病院には、他の診療科と連携して治療を進められる体制が整っているため、安心して治療を受けることができます。抜歯に対する恐怖心が非常に強く、全身麻酔を希望される方も、一般的には大学病院での対応となります。大学病院での治療は、高難度のケースでも保険適用内で安全かつ専門的な治療が受けられるという大きなメリットがあります。
Q3. 妊娠中や授乳中でも抜歯できますか?
妊娠中や授乳中の親知らずの抜歯は、慎重な判断が求められます。妊娠中の場合、基本的には緊急性がなければ出産後に抜歯を行うのが望ましいとされています。これは、レントゲン撮影、麻酔薬、処方される薬などが胎児に与える影響を考慮する必要があるためです。
ただし、親知らずによる炎症や痛みが強く、母体にとって非常に大きなストレスとなる場合は、妊娠時期によって抜歯が可能なこともあります。一般的に、つわりが落ち着き、体調が安定している「安定期」(妊娠5〜7ヶ月頃)であれば、歯科医師と産婦人科医が連携し、リスクを最小限に抑えながら抜歯を行うケースもあります。この際も、胎児への影響が少ないとされる麻酔薬や抗生物質が選択され、レントゲン撮影も必要最低限に留めるなどの配慮がなされます。
授乳中の場合は、薬の種類を選ぶことで抜歯は可能です。局所麻酔は母乳へ移行する量がごくわずかであり、痛み止めや抗生物質も、授乳中でも安全とされている種類を処方できます。ただし、授乳中であることを必ず事前に歯科医師に伝える必要があります。歯科医師は、授乳への影響を考慮した上で、適切な薬の選択や服用方法を指示します。いずれの場合も、まずはかかりつけの産婦人科医と歯科医師の両方に相談し、それぞれの専門家の意見を聞いた上で、最も安全で適切な治療方針を決定することが不可欠です。
まとめ:親知らずの費用や痛みの不安は専門家への相談で解消しよう
親知らずの抜歯は、多くの方が費用や痛み、仕事への影響といったさまざまな不安を抱える処置です。しかし、この記事を通して、治療目的であれば基本的に健康保険が適用されること、抜歯の難易度に応じた費用の目安があること、そして医療費控除や高額療養費制度といった経済的負担を軽減する仕組みが存在することをご理解いただけたのではないでしょうか。
痛みや腫れに関しても、ピークは抜歯後2〜3日、回復までには1週間程度という目安があり、適切な痛み止めや術後の過ごし方でコントロールできることをご説明しました。仕事や食事、その他の生活習慣についても、具体的な注意点を知ることで、抜歯後の回復を早め、トラブルを避けることが可能です。
今回ご紹介した情報はあくまで一般的なものであり、親知らずの状態や全身の健康状態、ライフスタイルは一人ひとり異なります。そのため、最も重要なのは、ご自身のケースについて自己判断せず、信頼できる歯科医院で専門家である歯科医師に相談することです。抜歯の必要性、費用、治療計画、そして術後のケアについて、納得のいくまで説明を受け、不安を解消した上で最適な治療に臨みましょう。